エピローグ
お爺ちゃんの葬儀は、滞りなく行われた。一人一握りの羊毛が身体を覆うほどの人など、お爺ちゃん以外にはいないだろう。乳黄色の綿毛に土がかけられていく様は、リジェを除いた全ての人々に涙を流させた。
そしてみんなは、重い足取りで亡骸を埋めた地から離れていった。各々の漂泊地でもまた、戦死した者たちを弔わなければならないから。
リジェは一人、残された。カレだけが付き添ってくれたが、傍でク〜ンク〜ン鳴かれるくらいなら一人の方がマシだった。カレが寝付くまで待ってから、今は土の下に眠るお爺ちゃんに語りかけた。
「……情けを、かけられたよ」
戦地で死に、戦地で弔われるはずがないのだ。一握りの羊毛を皆がかき集められる時間、敵が待つはずもない。なのに、それが成せてしまった。
決闘のあと、レンスは何も言わずにその場を立ち去った。共和国の軍隊諸共に。近い内に、次々と学者だか研究者だかが押し寄せるのだろう。自分で自分を守ることすらできない有象無象が。
自分で立つこともできない奴らに、お爺ちゃんが頑なに守り続けてきた山が汚される。苛立たしい。
大丈夫。自分一人でもこの山は守れる。
けれど、またあの大群が来るのだろう。
闘器、とかいう巨大な化け物が来るのだろう。
それでも、死ぬまで守り続けることに悔いはない。
けれど。
「カレ、行くよ」
呼びかけられたカレが、立ち上がったリジェを不振な目で眺める。
馬は無理だ。一人では生きて行けない。だから連れて行かないことにした。自分がこれから向かうのは、誰も待たない、受け入れない、だけの土地ではないから。
皆、敵だ。
少なくとも自分を、自分で守れないのでなければ。
「じゃ、言いつけ通りにあいつを追うよ。お爺ちゃん」
形見代わりに、自分の物よりもずいぶんと重い弓を背に括りつけて、リジェは歩き出した。銀紺の体毛を持つ狼を引き連れて。
リジェはふと、平らな大地を照らす青白い月を睨んだ。
一人でできることなど、たかが知れている。人一人を射殺すくらい。国を相手にできるはずもない。ただ、暗ければいい。闇さえ纏えば、狩りはできる。
月さえ、輝かなければ。 |